このような症状は潰瘍性大腸炎・クローン病の可能性があります

- 激しい腹痛
- 下腹部の違和感
- 1日に何度も下痢になる
- 下痢が長期間続く
- 便に白いものが混じる
- 便に血液が混じる・血便
- 排便の最後に血が出る
上記は、炎症性腸疾患によくある症状です。
疑わしい症状がある場合には、できるだけ速やかに消化器内科を受診してください。
炎症性腸疾患(IBD)について
広義の炎症性腸疾患は腸に炎症を起こすすべての病気を指しますが、狭義の炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎とクローン病のことを意味します。共にまだ原因は特定されておらず、難病に指定されている疾患です。
日本では1990年代以降、急激に患者数が増えてきています。潰瘍性大腸炎とクローン病ではまず診断が難しい場合があり、通常の細菌性腸炎などと判断が難しい場合があります。長い間下痢が続いているのに、正確な診断がされず、病気が放置されるといったケースも珍しくはありません。診断を難しくしている要因として、これといった診断を確実に決定づける検査所見がないことが挙げられます。炎症性腸疾患は症状や大腸カメラの所見などを総合的に診て最終的な診断となります。
治療についてはどちらも現代の医学では完治をすることは難しいとされていますが、炎症を落ち着かせ、寛解と呼ばれる状態をできるだけ長く維持する治療を行っていきます。適切な治療を続け、コントロールできれば日常生活への支障を最小限にできます。しかしながら治療も薬の反応など、個人差があり、治療に苦慮する場合も多々あります。大切なのは適切な専門医にかかり、早期に診断を受け、適切な治療を開始することです。
- 炎症性腸疾患の原因
潰瘍性大腸炎とクローン病の原因はまだはっきりわかっていませんが世界中で研究が進んでおり、少しずつIBDの病気のしくみが解明されてきています。遺伝や環境、食事、腸内細菌の異常などの様々な要因が関係し発症するとされています。
潰瘍性大腸炎について
大腸の粘膜に慢性的な炎症を起こす疾患で、慢性的に下痢や血便、腹痛などの症状が続きます。症状のある活動期・再燃期と症状のない寛解期を繰り返します。原因がまだわかっておらず完治に導く治療法がないことから厚生労働省の難病指定を受けています。潰瘍性大腸炎はクローン病と違い、主に大腸のみに炎症が限局し、大腸の表面である粘膜で炎症が起こることがほとんどです。症状や経過が似ていますが異なる病気であり、共通で使用する治療薬もありますが、潰瘍性大腸炎のみの治療薬もあります。
- 免疫と潰瘍性大腸炎
現在では、TNF-αという体内物質が過剰につくられ、それによって潰瘍性大腸炎の炎症が生じていることがわかっています。
TNF-αが過剰になる原因はまだはっきりわかっていませんが、遺伝や免疫の過剰な働きが関与していると考えられています。
- 潰瘍性大腸炎の症状
- 腹痛
- 下痢
- 血便
- 発熱
- 貧血
- 体重減少
下痢や血便が最初に現れることが多く、腹痛を伴うこともよくあります。症状のある活動期・再燃期と症状のない寛解期を繰り返し、進行すると発熱、貧血、体重減少などの症状を起こすようになります。 大腸の炎症が長期化すると大腸がんの発症リスクが上がります。大腸カメラを定期的に受けることで状態に合わせた治療と大腸がんの早期発見が可能になります。
- 合併症
進行すると炎症が腸管壁の奥に及び、腸管の狭窄や閉塞、穿孔、巨大結腸症、大量出血といった深刻な合併症を起こすことがあります。こうした腸管合併症を起こした場合には、緊急手術が必要です。
潰瘍性大腸炎では腸管以外の消化器や、関節・皮膚・眼などにも合併症を起こすことがあり、肝胆道系障害、結節性紅斑、口内炎などがあります。
- 検査と診断
問診で症状がはじまった時期、症状の内容や経緯などを伺います。潰瘍性大腸炎が疑われる場合、大腸カメラによる検査は必ず必要で、特有のびらんや潰瘍を確認でき、組織を採取することで病理検査による診断が可能であり、炎症の範囲や程度を把握できることから適切な治療にも不可欠です。
当院では患者さんの心身への負担を最小限にした無痛の大腸カメラを行っており、不安のある方のご相談にも丁寧にお答えしています。
- 治療
症状のある活動期・再燃期には炎症をできるだけ短期間に抑える治療を行い、症状のない寛解期にも治療を継続することで良好な状態をできるだけ長く続けられるようコントロールします。基本的に薬物療法を行いますが、生活習慣に気を付けることは状態のコントロールに役立ちます。
治療では、腸の炎症を抑える5-ASA製剤が有効で、活動期・再燃期で炎症が強い場合にはステロイドを用います。また、免疫調整薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤、抗菌薬などを使った治療を行うこともあります。
- 日常生活での注意点
寛解期にも治療の継続が必須ですが、日常生活の見直しも役立ちます。特に厳しい制限はありませんが、炎症のきっかけになる腸への負担を避けるよう心がけましょう。ストレスや疲労は症状の悪化につながることがあります。適度な休憩や休息をとり、身体にストレスを溜めないように心掛けましょう。
しっかりと治療を継続することで妊娠や出産も可能です。
運動
過度な運動は控える必要がありますが、適度な運動を習慣的に行うことは寛解期の継続に有効だと考えられています。医師と相談し、無理のない範囲で行うようしましょう。
食事
寛解期は食事制限がありませんが、暴飲暴食を避けましょう。栄養バランスのとれた食事を心がけるようにしてください。
アルコール
飲酒の影響についてはまだはっきりとわかってはいませんが、寛解期の適切な量の飲酒は問題がないと考えられています。
妊娠・出産
潰瘍性大腸炎でも、妊活・妊娠・出産した患者さんは多く存在します。ただし、その間も潰瘍性大腸炎の治療を続けて状態をしっかりコントロールすることが不可欠です。妊娠して慌てて自己判断で服薬を中止してしまうと、潰瘍性大腸炎の状態が悪化し、母体にも胎児にも負担が大きい治療が必要になってしまいます。 妊活前に主治医と相談し、妊娠した際の治療計画を事前に立てておくと安心できます。また、いきなり妊娠がわかった場合は、できるだけ早く主治医を受診し、その後の治療について相談してください。
クローン病について
小腸や大腸だけでなく、口から肛門まで消化管全体に原因不明の炎症や潰瘍ができる疾患で、特に小腸の一番末端に好発するとされています。
症状のある活動期・再燃期と症状のない寛解期を繰り返します。原因がはっきりとはわかっておらず、完治に導く治療法ありませんが、治療薬にて炎症の具合や症状をコントロールすることができます。厚生労働省の難病指定を受けています。専門医を受診して確定診断を受け、状態にきめ細かく合わせた治療を継続することで良好な状態を長く続けることが可能です。
潰瘍性大腸炎と似ており、寛解と再燃を繰り返しますが、潰瘍性大腸炎と違い、炎症が腸管全層にわたって生じるため、繰り返しの炎症や潰瘍の結果、腸管が狭窄したり穿孔を起こしたりすることがあります。そのような場合は手術治療が必要となり、あまりにも腸管へのダメージが大きい場合は大部分の小腸を切除することもあります。
そのような腸管ダメージ蓄積をさけるために、必ず治療を続けていく必要があり、寛解という良い状態を可能な限り長く維持することが大切とされています。病変が生じる場所により小腸型、小腸・大腸型、大腸型に分けられます。症状や治療法がそれぞれ異なるため、大腸カメラによる正確な診断が不可欠です。
- 免疫とクローン病
潰瘍性大腸炎と同様に、TNF-αといわれる免疫に関係する体内物質の過剰状態、免疫系の過剰な状態が炎症の原因と考えられておりますが、まだ正確な全容は解明されていません。
- クローン病の症状
病変がどこにあるかなどにより、様々な症状を起こします。腹痛や下痢が最初に起こり、症状がある活動期・再燃期と症状のない寛解期を繰り返すことが多いのですが、痔などをきっかけに発見されることも珍しくありません。
- 腹痛
- 下痢
- 発熱
- 体重減少
- 切れ痔・痔ろう
- 肛門の潰瘍や膿
- 口内炎
当初は粘膜の浅い部分に炎症を起こしますが、潰瘍性大腸炎に比べると深い場所まで炎症が及ぶことがあり、適切な治療を続けないと深刻な合併症を起こすリスクが高くなってしまいますので注意が必要です。
- 合併症
腸管の狭窄・閉塞、穿孔、膿がたまる膿瘍や腸管から管状の穴ができてしまう瘻孔などの深刻な腸管合併症を起こすことがあります。 腸管以外では、関節・眼・皮膚などに合併症を起こし、特に関節に生じることがよくあります。潰瘍性大腸炎と同様に肝胆道系障害、結節性紅斑などの合併症を起こすこともあります。
- 検査・診断
症状が起こりはじめた時期や内容の変化などを問診で伺います。大腸カメラで特有の病変を確認し、採取した組織の病理検査を行い、確定診断します。病変の状態や範囲を正確に把握できる大腸カメラは、適切な治療にも不可欠です。当院では、心身への負担を大きく軽減する無痛の大腸カメラを実施しており、ご不安にも丁寧にお答えしていますので、安心してご相談ください。
- 治療法
炎症を鎮め、良好な状態をキープするために、栄養療法と薬物療法を行います。栄養療法では腸管の安静と食事からの刺激を取り除くために成分栄養剤の使用や低脂肪、低残渣食などを用います。合併症の状態などによっては内科的治療ではなく、外科的治療が必要になるケースもあります。
また、生活習慣の見直しは寛解期の維持に役立ちます。
薬物療法
症状がある時期には炎症をできるだけ短期間に鎮める治療を行い、寛解期にはできるだけ長く良好な状態を保つための治療を行います。活動期・再燃期、寛解期を通じて5-ASA製剤を用い、活動期や再燃期には程度に合わせたステロイドを使って寛解に導きます。また、免疫調節薬、抗TNF-α抗体である生物学的製剤による治療を行うこともあります。最近ではクローン病に対する抗TNF―α製剤の投与は腸管の予後を改善し、将来的な腸管ダメージ蓄積の予防、しいては将来的な手術の予防につながるとされていることから、早期の段階で積極的に使用していく傾向にあります。
栄養療法
クローン病で炎症が生じている際には、食品からの刺激に強く反応して悪化することがあります。また、炎症範囲によっては食事による栄養の吸収が十分にできなくなってしまうケースもあります。そうした際には、消化管の安静を保ち、必要な栄養をとるために、成分栄養剤を投与する栄養療法が行われます。
完全静脈栄養法
点滴で投与する高濃度の栄養輸液による栄養療法です。クローン病の炎症が強い急性期や、腸管の狭窄などがあるなどの場合に行います。原則入院での治療となります。
- 日常生活での注意点
寛解期には、ある程度の食事制限が必要になりますが、それ以外は発症前とそれほど変わらない生活が可能です。良好な状態の維持には日常生活を見直しが役立ちます。
食事
クローン病では、食べると症状を誘発する食品があります。病変のある部位や範囲などにより、制限が必要になる食品は変わってきます。栄養の不足や偏りを起こさないよう制限する食品はできるだけ少なくすることが重要です。制限する食品を把握するためには、毎食をスマートフォンで撮影しておくことが有効です。
なお、寛解期にも症状を誘発する食品に注意する必要はありますが、無理のない範囲で食事制限に取り組みましょう。
運動
過度な運動を避ける必要はありますが、適度な運動を習慣的に行うことは良好な状態を保つために有効とされています。
アルコール
飲酒による影響はまだはっきりとはわかっていませんが、過度な飲酒を避け、適度な量の飲酒に問題はないと考えられています。
喫煙
喫煙はクローン病の症状の発症や悪化に関与することがわかっていますので、禁煙が必要です。
妊娠・出産
寛解期を維持して炎症を起こさないよう、治療を継続しながらの妊娠・出産は可能です。妊娠・出産の期間には、胎児への影響を最小限に抑えたクローン病治療をしながら寛解期を確実に維持していく必要があります。また、胎児の分の栄養をしっかり補給することも重要になりますので、しっかりコントロールすることが重要です。
なお、妊娠したからと自己判断で服薬を中止してしまうと再燃して悪化し、母体にも胎児にも負担が大きい治療が必要になってしまいます。できれば妊活をはじめる前に主治医と相談して妊娠中の治療計画を立てておくようお勧めしています。また、突然、妊娠がわかった場合も速やかに主治医に相談して治療を見直すことが重要です。