過敏性腸症候群について
おなかが弱い、緊張をするとすぐ下痢をする、ストレスを感じると便秘しやすいなど、これまで体質とされていた症状のほとんどは、ここ近年過敏性腸症候群によって生じています。過敏性腸症候群は、大腸粘膜に炎症や腫瘍などの器質的な異常はありませんが、知覚過敏や機能不全などによって腹痛を伴う下痢や便秘などの慢性的な症状を起こす病気です。一般的に大腸の機能が亢進すると下痢になり、低下すると便秘になりますが、過敏性腸症候群では強い亢進や低下を起こしやすく、その状態が長期間続きます。また、睡眠中に症状を起こすことがないというのは、大きな特徴になっています。
原因はまだ明確になっていませんが、腸の機能は自律神経がコントロールしていることから、緊張や不安をはじめとしたストレスの影響を受けやすい傾向があり、過敏性腸症候群でもストレスをきっかけに症状が現れることがよくあります。また、腸と脳は互いに影響を及ぼし合っている脳腸相関にあり、自律神経以外の内分泌なども相互に関与していることがわかっています。
過敏性腸症候群は若い世代の発症が増加傾向にあります。命に直接かかわる病気ではありませんが、学業や仕事に大きな悪影響を及ぼす可能性がありますので、疑わしい症状がある場合には早めにご相談ください。まずは大腸カメラ検査で他の病気が隠れていないかを確認することが重要です。
セルフチェック - このようなお悩みはありませんか?
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- 前兆なく急に強い腹痛を起こし、激しい下痢になる
- 通勤・通学で途中下車し、トイレに駆け込むことがある
- 大事な会議やプレゼン、面接、試験中に腹痛を起こし、トイレに行くことがある
- 不安や緊張でおなかを壊すことがある
- 硬くて小さくウサギの糞のような便が出る
- 強くいきんでも便がほとんど出ず、残便感がある
- 緊張するとおならが出てしまうことがある
- 旅行でもトイレの場所が気になってしまう
- 就寝中には腹痛などの症状を起こすことはない
- 下痢や便秘などの便通異常が1か月以上続く
上記の症状がある場合、過敏性腸症候群が疑われます。気になる症状がありましたら、早めにご相談ください。
過敏性腸症候群の分類
主な症状は、腹痛を伴う下痢や便秘といった便通異常であり、それ以外にも膨満感などの症状を起こすタイプもあります。症状の内容によって下記の4種類に分けられますが、別のタイプに移行するケースもあります。
- 下痢型
急に強い腹痛を起こし、トイレに駆け込むと水のような激しい下痢になり、排便後は症状がおさまります。
こうした症状を1日に何度も起こすこともあります。男性の発症が多く、通勤や通学でトイレに間に合わないのではと不安になり、そのストレスで症状を起こすという悪循環を起こしやすく、外出が苦手になることもあります。学業や仕事をはじめ生活全体に悪影響を及ぼす可能性がありますので、早めにご相談ください。
- 便秘型
便が停滞して腹痛を起こし、強くいきんでも少量の便しか出ず、残便感があるといった症状を起こします。
便秘型は女性に多く、ウサギの糞のような小さくて硬くコロコロした便が少量しか出ない場合には、便秘型の過敏性腸症候群が強く疑われます。強く長くいきむ癖がついてしまうといぼ痔や切れ痔の発症・再発リスクも上がってしまいますので、注意が必要です。
- 交代型
激しい腹痛を伴う便秘と下痢を繰り返します。長く便秘が続いた後で下痢になって再び便秘になる、下痢が続くが便秘になる時期もあるなど、様々なパターンで下痢と便秘を繰り返します。
- 分類不能型
膨満感、おなかが鳴る(腹鳴)、無意識におならが漏れるなど、便通異常以外の症状を起こすタイプです。
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の明確な原因はまだわかっていません
発症には、ストレス、食事、睡眠、腸内フローラなどが関与していると考えられており、腸機能をコントロールしている自律神経のバランスが崩れることで腸の蠕動運動機能に亢進や低下といった異常を生じ、それによって下痢や便秘の症状を起こすとされています。また、感染症腸炎発症後に過敏性腸症候群になるケースが報告されていることから、腸に生じた免疫異常などの関与も指摘されています。
腸と脳が互いに深く影響し合う「脳腸相関」
脳が送り出したストレス信号を腸管神経叢が受け取ると、腸管がそれに反応して様々な症状を起こします。腹痛や下痢・便秘、膨満感などの症状がストレスとなり、それが脳に伝わり、脳からストレス信号が腸管神経叢に送られるという悪循環を起こし、慢性的な症状につながります。 過敏性腸症候群では、この信号が伝わりやすくなっていて腸が過敏反応を起こしていると考えられています。
腸粘膜から分泌されるセロトニンが下痢や便秘に関与
脳からのストレス信号を受け取った腸管は、粘膜からセロトニンという神経伝達物質を分泌し、それによって腸の蠕動運動の亢進や低下を引き起こしているとされています。
過敏性腸症候群の症状 - SYMPTOMS
腹痛や便通異常、膨満感などの腹部症状だけでなく、不眠や頭痛などを起こすこともあります。
- 腹部症状
腹痛、下痢、便秘、残便感、膨満感、おなかが鳴る、不意にガスが漏れるなど
- 腹部以外に生じる症状
不眠、不安感、抑うつ、頭痛、めまい、肩こり、食欲不振など
過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群では、大腸粘膜の炎症など器質的な問題はありません。ただし、過敏性腸症候群で生じる症状の多くは、他の大腸疾患とも共通していますので、大腸カメラで大腸粘膜の状態を観察し、異常がないことを確認する必要があります。特に早急な治療が必要な炎症性大腸疾患や大腸がんではないことを確かめることが重要なために大腸カメラに加え血液検査なども行います。
他の疾患ではないことが確認されたら、改めて丁寧な問診を行います。そこでは、症状が起こりはじめた時期や頻度、症状の変化、便の状態、排便回数、症状を起こすきっかけ、食事などを含む生活習慣、ライフスタイル、病歴や服用している薬などについて伺い、過敏性腸症候群の世界的な診断基準であるRomeIII基準をもとに診断しています。
RomeIII基準
過去3か月間の症状を確認し、下記の項目の2つ以上が当てはまり、月に3日以上に渡って繰り返し症状を起こしていると医師が判断した場合に診断されます。
- 排便により症状が緩和する
- 症状とともに排便回数の増減がある
- 症状とともに便の形状変化がある
※便の形状変化とは、水のような下痢、ウサギの糞のように小さくて丸くコロコロした便などを指します。
過敏性腸症候群の治療 - TREATMENT
つらい症状を薬物療法で緩和させ、生活習慣を見直します。
生活習慣の改善とストレスの上手な解消は、症状の緩和と解消、再発防止にも有効です。
- 生活習慣の改善
食事
- 3食をできるだけ同じ時間にとる
- 食物繊維と水分をしっかりとる
- 暴飲暴食を避ける
- 栄養バランスを考えた食事をとる
- 刺激が強い香辛料・カフェイン・アルコールを過剰にとらない
休息と睡眠をしっかりとる
- やや早足の散歩など軽い有酸素運動を習慣付ける
- 夏も毎日バスタブに浸かり、身体をしっかり温める
- 入浴後は身体を冷やさないよう心がける
- 趣味やスポーツなど、熱中できる時間を積極的につくる
- 浴室・トイレ・寝室などをリラックスできる空間にする
- 薬物療法
過敏性腸症候群は様々な症状を起こす疾患であり、患者さんがお悩みになっている症状もそれぞれ異なります。使用される薬は、消化管機能を改善するもの、便の水分量を整えるもの、下痢や便秘の症状を緩和させるものなどがあり、新しい作用を持った薬も登場しています。また、同じ作用の薬でも効果の現れ方、服用間隔などが違うものがありますので、当院では、患者さんの状態やお悩み、ライフスタイルなどにきめ細かく合わせた処方を行っています。下痢型の症状でお悩みの方には、予兆を感じた時に服用してその後に現れる症状を軽くする薬を処方することもあります。乳酸菌などのプロバイオティクス、漢方薬などが使われることもあります。
症状の変化によって有効な処方が変わってくる場合もありますので、再診時には処方を微調整し、より効果の高い処方になるようにしています。
焦らずに治療しましょう

過敏性腸症候群は慢性疾患であり、じっくり治すことが重要です。症状が落ち着くまでに短くて数か月、長くなると年単位の期間がかかります。さらに、症状が落ち着いても、再発することがありますので焦らずに治療に取り組む必要があります。当院では、できるだけストレスなく治療を続けられるようしっかりサポートしていますので、些細なことでも遠慮なくご相談ください。