梅毒

最近の動向

梅毒は、梅毒トレポネーマ (Treponema palliudum) という細菌に感染することで発症します。感染経路はオーラルセックスを含む性交渉在胎中の母子感染がほとんどを占めます。

近年我が国では、2013年ごろより梅毒感染者が右肩上がりに増加し、2022年にはついに年間10000人を超えました(図2)。なお、2020年頃に一旦報告数の減少がありますが、コロナ禍の影響で保健所や医療機関での検査のキャパシティオーバーが原因と考えられています。

最近の動向図2 梅毒届出数の年次推移(文献2より引用)

最近の動向図3 2021年の年齢別梅毒感染者数(文献3より作成)

感染者のうち、約3分の1が女性であり、女性患者では20代が半数以上を占めます(図3)。性的接触機会の多い20代女性の感染率が高いことが感染拡大の一つの要因と考えられます。

また、若年女性における梅毒感染は、妊娠との結びつきを考慮する必要があります。妊娠女性が梅毒に感染していた(または感染した)場合、胎盤を通して胎児への感染が起こり、流産、死産、先天性梅毒を引き起こすことがあるからです。

先天性梅毒は、出生後まもなく皮膚病変や骨軟骨炎、肝脾腫などで発症する早期先天梅毒と、学童期以降に角膜炎や難聴、発達遅延などの症状を発症する後期先天梅毒があり、出生児の良好な発育を妨げる様々な症状を発症します。

先天性梅毒の報告数は2000年から2013年までは年間10件未満であることがほとんどでしたが、直近5年間では20件以上と梅毒罹患者数の増加に伴って急激に増加傾向にあります(図4)。

最近の動向図4 先天性梅毒届出数の年次推移(文献2より引用)

梅毒が最近になって増加傾向にある理由の一つは若年者における‘性行動の多様化’にあると考えられています。マッチングアプリの利用率増加に伴い、不特定多数の人間同士が接触の機会を得るプラットフォームが整っていることが要因の一つであるという意見もあります4)。

我が国では、今後も梅毒や先天性梅毒の増加はしばらく続くと考えられますが5)、わたしたちが自分の身体やパートナー、子どもたちなど大切な人たちの健康を守るために今できることは何か、考えていきたいと思います。

目次

 


 

症状

梅毒の症状は非常に多彩であり、医療機関を受診してもすぐに診断されず、他の疾患と間違えられる場合も多いです6)。また、潜伏期間といって症状が出現するまで時間差があることから医療機関等への受診が遅れたり、実際には身体の中で病原体が増え続けているにも関わらず症状が消失して一旦治ったようにみえることが多いため、感染の自覚のないまま、知らず知らずのうちに病気が進行するといった場合もあります。

 - 第1期梅毒:一次病変の形成

感染してから通常1ヶ月程度(遅くとも3ヶ月間)の潜伏期を空けて、病原体が侵入した場所から隆起したできもの(丘疹)硬いしこり(初期硬結)皮膚がはがれて皮下組織がみえている病変(硬性下疳)などを形成します。リンパ節の腫脹を認める場合もあります。この段階で放置すると自然に退縮して潜伏梅毒になることが多いですが、二次病変の症状が重なる場合もあります。

 - 第2期梅毒:二次病変の形成

感染してから1〜3ヶ月後にみられることが多く、体内に散布された梅毒トレポネーマによる二次病変を引き起こします。全身性の発疹(梅毒性バラ疹)、手掌・足底の紅斑(梅毒性乾癬)、陰部や口腔の粘膜病変(梅毒性アンギーナ)などが代表的です。全身性の病変が出現するのが特徴ですが、現れない場合もあり注意が必要です。放置すると自然に症状が軽快して潜伏梅毒に移行することが多いですが、2〜3割程度は二次病変が再燃するといわれています(図5)。

図5 梅毒の症状(文献7より改変)

 - 第3期梅毒:三次病変の形成

感染から1年以上経過しても、無治療の場合は後期梅毒に進行する場合があります。この時点では性的接触での感染力はないとされますが、ここまで進行すると組織破壊が不可逆なレベルまで進展するため、治療しても後遺症を起こす可能性が高くなります。代表的な症状は心血管梅毒、ゴム種、神経梅毒などが挙げられますが、これらの病態は10年単位で進行するため、現在我が国でみられることは稀です。
早期発見・早期治療が望ましいこの疾患で、特に重要になるのが、早期梅毒(第1期もしくは第2期)の症状です。

図6 梅毒の病期分類(文献6より引用)

以上のように、病期による症状をお示ししましたが、これに合致しない症状(例えば発熱とリンパ節腫脹のみなど)も多く見られます。症状に乏しい場合でも、無防備なセックスが行われた場合やセックスパートナーが性感染症と診断された場合などは医療機関などでの検査が勧められます

なお、先天性梅毒の症状に関しては別の項で解説しようと思います。

 


 

検査

非トレポネーマ脂質抗体検査(STS)および梅毒トレポネーマ抗体検査という2種類の梅毒抗体を血液検査で計測することによって診断されます。過去に症状があって現在は消失した後でも、梅毒に対する抗体は身体で産生されていますので本検査を行うことで正しく診断することができます。ただし、ごく初期の梅毒(感染後4週間以内)では検査結果が正しく出ない場合がありますので何度か繰り返し検査することが勧められます。

 


 

治療

ペニシリン系の抗菌薬が第一選択となります。内服薬と注射薬を選択でき、効果はどちらも同等ですが早期梅毒では内服薬は4週間、注射薬のほうは筋肉注射1回と治療期間が異なります。ペニシリン系のアレルギーのある方はミノマイシンなどの抗菌薬を考慮します。梅毒は早期に発見して、適切な治療を行うことで治癒が可能です

 


 

予防の観点から

ペニスの挿入前にコンドームを適切に装着すること*で梅毒他、性感染症を高い確率で予防することが可能です。
*裏表を間違えない、膣内挿入前に装着する、使用期限を守る、財布の中に入れない(傷がつくため)などがあります。

セックスのたびにコンドームを必ずつけるようにすることは、性感染症から自身やパートナーを守るsafer sex(安全なセックス)として推奨されています8)。また、新しいパートナーができた場合や複数のパートナーがいる場合は定期的に検査(1年に1回以上)を受けることは重要ですし、それ以上に不特定多数の人とパートナーにならないことや安全でないセックスを拒否することなどを遵守することで性感染症は予防可能です。
セックスをすること自体は悪いことではありません。しかし、セックスの背景には怖い疾患が隠れています。だからこそしっかりとした科学的根拠を身につけ、危険を回避することで大切なお身体を守ってほしいのです。

そして私たちはあなたが自身だけでなく、あなたの大切な人の身体や子どもたちの命を守ることができるようにサポートしていきたいと考えています。
気になる症状やご質問あればお気軽にご相談ください。

参考文献

1)Avila N C, et al. Syphilis vaccine: challenges, controversies and opportunities. Front Immunol 2023; 6: 14: 1126170.
2)日本性感染症学会. 梅毒診療の基本知識 2024.
3)厚生労働省Hp(最終アクセス 2024/3) : 性感染症報告数
4)谷崎隆太郎. 【ポストコロナの感染症】コロナの陰で増えた感染症 梅毒 治療 2023; 103: 3: 302-305.
5)小野芳啓ら. 梅毒アウトブレイクは始まったばかりである The Kitakanto Medical Journal 2023; 73: 2: 143-148.
6)日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療ガイドライン 診断と治療社 2020.
7)荒川創一. 性感染症の現状と問題点 環境感染誌 2021; 36: 1: 1-20.
8)CDC HP (最終アクセス2024/3)

文責:東海内科・内視鏡クリニック岐阜各務原院 仙波 恵樹

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